1試合に発生するオンボールアクション*1は約1,600。ところが、ゴール・アシスト・xGといった伝統的な指標で評価できるのは、そのうちわずか1%にも満たない。残り99%に価値をつけるのがVAEPという指標だ。本稿では、VAEPの仕組みを簡単に整理したうえで、25/26シーズンのT5*2リーグから「伝統的な指標では見えづらい価値」を持つ3選手を紹介したい。
VAEPとは何か

VAEP(Valuing Actions by Estimating Probabilities)は、KU LeuvenのDTAI Sports Analytics Labが開発したアクション価値推定フレームワークである(Decroos et al., KDD 2019)。
発想はシンプルだ。選手のパフォーマンスは、シュートやキーパスといったハイライトに映る瞬間だけで成り立っているわけではない。1試合あたり両チーム合計で約1,600発生するすべてのパス・キャリー・タックル・インターセプト・リカバリー — その一つひとつに価値をつけよう、というのがVAEPの根本にある考え方だ。
仕組み
VAEPは内部で、勾配ブースティング(gradient boosting)を用いた2つの分類器を学習させている。
- P_scores — ボール保持チームが次の10アクション以内に得点する確率
- P_concedes — ボール保持チームが次の10アクション以内に失点する確率
ゲームステート*3(直前3アクションの種別・座標・ボディパート・経過時間など)から両者を予測し、アクション前後の確率変化分をそのまま価値として算出する。
VAEP = ΔP_scores + ΔP_concedes
例えば+0.05なら「0.05ゴール分の貢献」を意味し、負の値であればチームを不利にしたアクションということになる。
具体例を挙げると、自陣ボックス手前でカウンターを摘んだタックルは、スコアシート上ではただの1行に過ぎないが、VAEPでは大きな正の値が付く。逆に、ディフェンシブサード*4でのリスキーなパスがプレッシャー下でインターセプトされれば、はっきりとした負の値が割り当てられる。自陣ゴールを守る貢献とボールを持ったときのリスクの取り方の両面に価値をつけられる — ここがVAEPの核と言える部分だ。
xTとの違い
アクション価値指標はVAEPだけというわけではない。StatsBombのOBV*5も同じ思想に基づく指標だ。ただ、設計の違いを語るうえで一番面白い比較対象はxT(Expected Threat, Karun Singh, 2018)の方だろう。
xTはピッチをグリッド状に分割し、各ゾーンに「数アクション以内に得点が生まれる確率」を割り当てる。パスやキャリーの価値は、開始ゾーンと終了ゾーンのxT差分で表現される。
VAEPとの違いは、実用面で大きく3つに整理できる。
- ゲームステート — xTはボールの位置だけを使う。VAEPは直前3アクションを文脈として読む
- リスクの扱い — xTは前進だけを評価する。VAEPは失点確率を別途モデル化しているため、危険エリアでのリスキーなバックパスやターンオーバー*6には負の値が付く
- 守備への対応 — xTはタックルやインターセプトを評価できないが、VAEPは可能
カウンターを未然に防いだリカバリーを考えると違いが分かりやすい。xTには「低価値ゾーンでのリカバリー」としか映らないが、VAEPはターンオーバーが起きた文脈まで含めて評価する。
VAEPの限界
これだけ広く適用できる指標にも、当然ながら限界もある。
- 解釈性の低さ — xTのようにゾーンマップから値を直感的に読み取ることができない(機械学習モデルのため、どのアクションがなぜその値になったのかを説明しづらい)
- シュートバイアス — ボックス付近のアクションに高い値が付きやすく、シュート数の多い選手はVAEP上で過大評価されがち
- オンボールのみ — プレッシング、オフボールラン、守備ポジショニングといった要素はVAEPには映らない
万能の指標ではない。が、それでも非常に有用な指標であることに変わりはない。
VAEPが映し出すhidden talent
ここからは、VAEPがxG・xAやProgressive Actionsでは見えづらい価値を可視化している3選手を取り上げる。いずれもT5リーグのU-23が母集団だ。
William Saliba




VAEPがその真価を発揮するタイプの典型例といえる選手。21-22から24-25までの4シーズン、T5 U-23 CBの中で、SalibaのPass + Carry VAEPは素のProgressive Actionsの量から想像される水準を一貫して上回ってきた。差が最も大きく出たのは22-23シーズンで、Progressive Actionsが22パーセンタイル*7にとどまる一方、Pass + Carry VAEPは94パーセンタイル(T5全体比)にまで達している。量だけを見ると彼は過小評価される — 一つひとつの前進が持つ価値こそ、VAEPが表すものだ。
Santiago Mouriño


Villarrealの24歳サイドバック(U-23はシーズン開始時点で23歳までを含むカテゴリのため、Mouriñoも対象となる)。T5 U-23のフルバック内でPass + Carry VAEPは6位、Defensive Action VAEP (Raw)は3位にランクインしている。一方で、ゴール・アシスト・xA・Progressive Actionsのいずれも特段目を引く水準ではない。伝統的な指標とは違う角度から、VAEPは彼の貢献を浮かび上がらせている。
Leon Avdullahu


Hoffenheim躍進の立役者の1人。パスについてはすでにアナリスト界隈で評価が高まりつつある一方で、守備アクションの量が少ないことから、典型的なDLP(Deep Lying Playmaker)と分類されることが多かった選手だ。興味深いことに、彼のDefensive Action VAEPはT5ミッドフィルダーの中で86パーセンタイルに位置している。量こそ多くないが、数少ない守備アクションが、実際に意味のある場面でしっかり起きている — まさにVAEPが可視化するために設計されたタイプのプロファイルといえる。
おわりに
最後に、VAEPを実際に手元で扱える環境を提供してくれたScout Labに感謝を伝えたい。私がVAEPを学び始めたのも、このプラットフォームがきっかけだった。本稿で取り上げた選手以外についても、以下のリンクからぜひ覗いてみてほしい。
参照元:
- Actions Speak Louder than Goals: Valuing Player Actions in Soccer — Decroos et al., KDD 2019
- Exploring VAEP — KU Leuven DTAI Sports Analytics Lab
- Valuing On-the-Ball Actions in Soccer: A Critical Comparison of xT and VAEP — KU Leuven DTAI Sports Analytics Lab
- Beyond Expected Goals: Meet xT and VAEP, The Metrics Redefining Player Value — The PFSA
- Expected Threat (xT) — Karun Singh
*1:ボールに直接関わるアクション。パス・キャリー・シュート・タックル・インターセプトなどの総称
*2:欧州5大リーグ。Premier League・La Liga・Bundesliga・Serie A・Ligue 1
*3:試合の局面を表す情報の組。アクションの種別・座標・ボディパート・経過時間などで構成される
*4:ピッチを縦に3分割したうちの自陣寄りのエリア
*5:On-Ball Value。データ提供会社StatsBombが開発したアクション価値指標で、VAEPと同じく全オンボールアクションを得点確率への影響でスコアリングする
*6:攻守の入れ替わり。自チームがボール保持を失い、相手チームに保持が移る場面
*7:母集団における順位を百分率で表した値。94パーセンタイルなら上位6%に位置することを意味する

