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【2026年3月】今月のフットボールダイジェスト

1. CL R16総括: 「PL最強時代」の幻想が崩れた2週間


出典:Opta Analyst

3月のチャンピオンズリーグ・ラウンド16は、プレミアリーグにとって歴史的な屈辱となった。過去最多の6クラブがR16に進出し、Optaスーパーコンピューターはイングランド勢のCL制覇確率を59.9%と算出していた。しかし現実は残酷だった。

第1レグの結果は以下の通り:

  • Newcastle 1-1 Barcelona
  • Bayer Leverkusen 1-1 Arsenal
  • Galatasaray 1-0 Liverpool
  • Real Madrid 3-0 Manchester City
  • PSG 5-2 Chelsea
  • Atletico Madrid 5-2 Tottenham

6試合中5試合がアウェー開催だったとはいえ、合計スコア8-15は衝撃的だ。



出典:Opta Analyst

最大のインパクトはベルナベウでのReal Madrid 3-0 Manchester City。Federico Valverdeが20分、27分、42分と22分間でハットトリックを達成した。CL決勝トーナメントにおけるベルナベウでの最速ハットトリックであり、イングランドクラブ相手の前半ハットトリックはLionel Messiの対Arsenal(2010年)以来2人目。Pep Guardiolaは直近リーグ戦で機能していたボックス型中盤を解体し、Nico O'Reillyを左SBに戻して4人攻撃を採用。中盤がRodriとBernardo Silvaの2枚に減少し、構造そのものが崩壊した。皮肉にも、ほんの数週間前まで「ダイレクトで、冷徹で、容赦がない」と称されていたチームの変貌ぶりだった。



出典:Opta Analyst

PSGは9本のシュートから5得点という驚異的な決定力を見せ、62分に投入されたKhvicha Kvaratskheliaが2ゴール1アシストで試合を決定づけた。Atletico Madridは試合開始からわずか22分間で4ゴールを奪い、これはCL史上2番目の速さだった。TottenhamのGKAntonin Kinskyはわずか5タッチで3失点を喫し、17分で交代。CL 2007-08以降で最悪のエラー率(8.5分に1回)を記録した。



出典:Opta Analyst

第2レグではLiverpoolがGalatasarayを4-0で圧倒(通算4-1)、ArsenalもBayer Leverkusenに2-0で勝利(通算3-1)し、2クラブのみがQFに進出した。一方、BarcelonaはNewcastleを7-2で粉砕。Raphinhaが2ゴール2アシスト、Lamine YamalはCL10ゴールに到達した最年少選手(18歳248日)となり、Robert LewandowskiはCL決勝トーナメント史上最年長得点者(37歳209日)となった。Newcastleの7失点は2012年12月のアーセナル戦以来、609試合ぶりのことだった。

結局、今年もQFに進んだイングランド勢は2クラブ。これは4シーズン連続で同じ数字だ。「良いチームを持つことと、良い選手を多く持つことは違う」という欧州からの指摘は、PLの構造的な課題を鋭く突いている。

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2. カラバオカップ決勝: Arsenal 0-2 Manchester City


出典:Opta Analyst

PLの1位と2位がリーグカップ決勝で激突した史上初のケース。PL首位を9ポイント差でリードするArsenalが、CLから敗退したばかりのManchester Cityに完敗した。

前半は両チーム合わせてわずか7本のシュート。Arsenalは7分にGKJames Traffordの4秒間3連セーブに阻まれ、これが最も得点に近づいた瞬間となった。60分、Kepa ArrizabalagaがRayan Cherkiのクロス処理を誤り、Nico O'Reillyがヘディングで先制。4分後にもMatheus Nunesのクロスから追加点を挙げ、リーグカップ決勝で2得点を挙げた史上3番目の若さの選手となった。



出典:Between The Posts (@BetweenThePosts) / X

この試合を決定づけたのはCityの4-2-4ハイプレスだ。Erling HaalandとCherkiがDeclan Rice・Martin Zubimendiへの中央パスコースを封鎖しつつ、CB/GKへのバックパスコースもカバー。DokuとSemenyoはカーブしたプレスランでボールをGK方向に追い込み、FBにボールが出た瞬間は後退してスペースを消す。Bernardo SilvaとRodriはゾーンを維持し、Arsenalがロングボールに逃げた際に6対4の数的優位でセカンドボールを回収した。結果、ArsenalのProgressive Passesはわずか19本。対するCityは181本。Arsenalのビルドアップをここまで完全に封殺した試合は今季他にない。

Guardiolaにとってはリーグカップ5連覇(通算9回、監督として史上最多)。一方、Arsenalはリーグカップ決勝4連敗で、同大会での優勝は1993年が最後。CLで惨敗した直後にカップ戦で完勝する——この「勝ち方の記憶」こそが、タイトルレース終盤でArsenalにのしかかる心理的な重圧になるかもしれない。

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3. Mohamed Salahの今季: データが映す「曲がり角」

Mohamed SalahがCL通算50ゴールに到達した(アフリカ人選手初、97試合でRaulと同ペース)。しかし今季のリーグ戦に目を向けると、キャリアの転換点を示すデータが並ぶ(以下、いずれも2026年3月時点)。



出典:Opta Analyst

Liverpoolでの通算255ゴール119アシスト、PL単一クラブでのゴール関与数281は歴代最多。だが今季は34試合で10ゴールにとどまり、ノンペナルティゴールは90分あたり0.24(前季の半分以下)。シュートコンバージョン率*110%、ボックス内タッチ7.5回/90分(前季9.6)、ドリブル成功率19.7%——いずれもリバプール在籍中のワーストだ。



出典:Opta Analyst

原因はシステムと個人の両面にある。Trent Alexander-Arnoldの退団で右サイドの連携が消え、ボックス内タッチの割合は全タッチの20%→15%に減少。対戦相手のローブロック率が22%→26%に上昇した環境変化も大きい。一方でSalahのターンオーバー率37%はキャリア最高で、守備負担の増加(タックル0.59/90分、インターセプト0.35/90分はともに自己最高)が攻撃面を圧迫している。

ただし、CLのGalatasaray戦ではセントラルに配置されて7本のシュート(6本枠内)、npxG 1.45(今季最高)を記録。ポジショニング次第でまだ爆発力があることも示された。

3月24日、Salahは自身のSNSで告別動画を公開し、今季限りでの退団を正式に発表。残り12ヶ月の契約を合意解除し、今夏フリーエージェントとなる。動画はX上で48時間で3100万回再生された。次の行先としてはMLS(San Diego FC等)が有力視されている。Liverpoolは4-2-2-2への移行を模索中だが、Salahの穴を埋める作業は容易ではない。

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4. PLシーズン終盤: 降格争いの構造的課題

3月だけで監督交代が2件。降格争いは「戦術」以前に「クラブ構造」の問題として浮き彫りになった。

Tottenham: 3人目の監督


出典:Spencer Mossman (@fc_mossman) / X

今季3人目の監督という異常事態。Thomas Frank(勝率26.9%、PL史上最低)→ Igor Tudor(クラブ史上初の就任後4連敗、44日で退任)→ Roberto De Zerbi(3月末就任)。引き継いだのは直近55試合12勝6連敗(クラブ史上初)という惨状だ。

Frank時代のオープンプレーxGは0.69/90分、得点の36.1%がセットプレーから。Tudorは3-4-3でPalhinhaを最終ラインに配置するなど適合に失敗した。De ZerbiのMarseilleでの直接プレー速度1.72 m/sはTottenhamの1.77 m/sとほぼ同じだが、パスシーケンスの長さ(ポゼッションの質)には大きな差がある。残り7試合での浸透は至難の業だろう。

Nottingham Forest: 53本撃って無得点


出典:Opta Analyst

Chris Wood離脱(10月)後の攻撃崩壊が深刻だ。昨季はWoodがシュートコンバージョン率29.4%で攻撃を牽引し、チームのxG overperformanceは+11.5。今季はコンバージョン率7.1%(リーグワースト2位)、xG underperformance-6.7に転落した。2試合連続で合計53本のシュートを放ちながら無得点という衝撃的な記録も。代役のIgor JesusはPL 2ゴール/26試合に対しEL 7ゴール/7試合という極端な乖離を見せている。

Elliot AndersonやOmari Hutchinsonといった個のタレントは揃っているだけに、ストライカー問題の深刻さが際立つ。

West Ham: 大脱出の途上


出典:The Transfer Flow

2月時点では21試合14ポイントと絶望的だったが、Nuno Espirito Santo体制で立て直し、3月にはFulhamに1-0で勝利するなど浮上の兆しを見せた。ただし3月末のAston Villa戦では敗戦し、依然として降格圏内にとどまっている。DF Jean-Clair Todiboのウォームアップ中の負傷離脱も痛手だ。4月のWolves(H)・Crystal Palace(A)・Everton(H)の3試合で最低6ポイントが残留の条件とされる。

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5. Tempo Control Profile: 選手の「テンポ」を可視化する


出典:Pranav (@pranav_m28) / X

3月にアナリストのPranavがXで公開した分析フレームワーク「Tempo Control Profile」を紹介したい。パスやキャリーといったアクション間の時間差を計測し、直前のリズムに対してプレーが「加速」したか「減速」したかを判定する。さらに、テンポ変化が起きたゾーンの文脈を加味する。速いプレーでも、横パスと危険なエリアへの縦パスでは価値が異なるからだ。

選手は3タイプに分類される:

  • Tempo Catalyst: テンポを上げるアクションが支配的な選手
  • Tempo Conductor: 加速と減速をバランスよく使い分ける指揮者タイプ
  • Tempo Settler: ポゼッションをリセットし、安定させる選手



出典:Pranav (@pranav_m28) / X

PLのMFではDeclan RiceがCatalyst 1位。ただしテンポを上げるエリアは主にサイドで、ウイングやフルバックへの素早いリリースが中心だ。中央を通して加速するタイプではない。一方、ラ・リーガのPedriはCatalyst 1位かつSettler 1位という唯一無二のバランスでConductorに分類された。パスインジェクション(加速パス)の数もリーガMF最多で、キャリーでもフェーズを問わずテンポを変えられる。



出典:Pranav (@pranav_m28) / X

興味深いのはAlessandro Bastoni(Inter Milan)のケースだ。セリエAのCBとしてパスインジェクションはトップクラスだが、膨大なパス量ゆえにリセットの絶対数も多く、分類上はTempo Settlerとなった。数字の表面だけでなく「なぜその分類になるか」を読み解くことの重要性を示す好例だ。

従来のパス成功率やキーパス数では見えない、「チームのリズムへの作用」を捉える試みとして注目したい。

参照元:

*1:ゴール数/シュート数。決定力を表す指標。